大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島地方裁判所郡山支部 平成7年(ワ)271号 判決 1998年3月06日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求(原告の求めた裁判)

一  被告らは原告に対し、各自金五〇〇〇万円及びこれに対する平成四年七月二八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

第二  事案の概要及び争点

一  本件は、訴外渡辺武雄(以下、渡辺という。)に対し五〇〇〇万円を融資した原告が、右融資に伴い設定された担保が無価値であり、回収ができなくなったとして、

1  担保の設定を依頼した、司法書士である被告永山徹(以下、被告永山という。)に対し、同被告が専門家として設定した担保が無価値になる危険性を説明、助言しなかったことから、同被告には委任契約に伴う義務違反に伴う損害賠償責任、あるいは不法行為責任が、

2  融資の話を持ちかけた被告佐藤光一(以下、被告佐藤という。)に対し、あたかも十分な担保価値があるかのような言動を用いて原告をして渡辺に回収不可能な融資をさせたことから、同被告には不法行為責任が、

それぞれ存在し、両者には客観的関連共同性があるとして、連帯して回収不能となった融資額五〇〇〇万円の損害を連帯して支払うよう求めた事件である。

二  争いのない事実及び証拠上あるいは弁論の全趣旨から容易に認定しうる事実

1  原告はかつて川上温泉で旅館業を営んでいたが、昭和六三年に旅館を売却した後は無職であり、右売却益及びその利息で生活していた。

2  原告と被告佐藤とは五〇年来の付き合いの親しい友人で会った。

3  被告佐藤は、平成四年七月二五日以来、渡辺が代表取締役を務める訴外株式会社つつみ住建(以下、つつみ住建という。)の監査役であった。

4  被告永山は司法書士である。

5  原告は平成四年七月二八日、渡辺に対し、五〇〇〇万円を弁済期平成七年七月二八日、利息年一〇パーセントを毎月五日払い、損害金年二〇パーセントの約定で貸し渡した(以下、本件消費貸借という。)。

6  本件消費貸借に際し、原告に対する担保として、債務者を渡辺、極度額を五〇〇〇万円とする根抵当権が、訴外有限会社日商の所有する七筆の土地に設定された(以下、本件担保物件という。)。

7  右設定登記手続及び本件消費貸借についての公正証書作成嘱託手続を依頼されたのが、被告永山である。

8  本件担保物件には訴外大蔵省及び訴外株式会社クリスタルファイナンスによる差押登記が経由されていた。

9  渡辺は元金を返済していない。

10  本件担保物件中、五筆については競売により売却されており、残る二筆も多額の先順位抵当権が設定されている。

三  争点

1  原告は、被告永山の責任について、被告永山は、原告から本件消費貸借の契約締結に際しての立会い、根抵当権の設定、公正証書の作成を依頼され、右依頼に応じて五〇〇〇万円(銀行預手二通)の授受に立ち会うとともに、根抵当権の設定及び公正証書の作成に必要な書類を作成したものであるから、

(一) 民法六四四条に基づき、立会いに先立ち、本件担保物件について事前に調査し、金員の授受に際して設定する根抵当権を無価値ならしめる虞れのある事実があった場合はこれを説明すべき義務があるにもかかわらず、本件担保物件には先順位抵当権、根抵当権の外、二件の差押えがなされていて、設定した根抵当権が抹消される虞れがあることを説明しなかったとして、説明義務違反の債務不履行責任がある。

(二) あるいは、司法書士は本件担保物件について事前に調査し、金員の授受に際して設定する根抵当権を無価値ならしめる虞れのある事実があった場合はこれを説明、助言すべき義務があるのに、本件担保物件には先順位抵当権、根抵当権の外、二件の差押えがなされていて、設定した根抵当権が抹消される虞れがあることを説明しなかった過失に基づく不法行為責任がある。

2  被告佐藤の責任については、渡辺あるいはつつみ住建に十分な返済資力があり、かつ本件担保物件にあたかも十分な担保価値があるかのような言動を用いて原告をして渡辺に回収不可能な融資をさせた不法行為責任がある。

とそれぞれ主張し、両者の責任は共同不法行為類似の関係にあるから、民法七一九条を類推適用して、連帯して原告において生じた損害(回収不能となった貸付金額五〇〇〇万円)を賠償するべきものであり(被告永山において不法行為責任が認められる場合にはまさに七一九条の問題になるとする。)、共同が認められない場合でも、両者の責任は併存すると主張する。

3  右請求に対し、被告永山は、

(一) 依頼を受けたのは根抵当権設定登記手続及び公正証書作成嘱託手続のみである。として依頼内容を否認し、

(二) 原告の設定した根抵当権設定登記が抹消される高度の蓋然性があったとはいえないし、司法書士において原告が主張するような実質的な関係にまで踏み込んだ説明、助言をする義務はない。

として、原告の請求を争い、

4  被告佐藤は、原告に対し渡辺に金銭を貸し付けることを要望したことはなく、原告は自らの判断で本件消費貸借をおこなったものである。

として、同じく原告の請求を争う。

5  したがって本件の争点は、

(一) 被告永山、被告佐藤において原告の主張するような責任が認められるか。

(二) 認められる場合、損害額はいくらか。両者の責任はどのような関係にあるか。

ということになると思われる。

第三  証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中の証拠関係目録記載のとおりである。

第四  当裁判所の判断

一  成立に争いのない甲八号証、乙一号証の一ないし七、二号証の一ないし一一、三号証、四号証の五、八号証、原告本人尋問の結果から真正に成立したものと認められる甲一一号証、弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められる甲九号証の一ないし三、証人渡辺武雄(渡辺)の証言、原告及び被告佐藤の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。なお、右証拠中、認定事実に反する部分は措信しない。

1  つつみ住建は、被告佐藤から紹介されて知己の間柄であった原告から、川上温泉の旅館を売却するときに売却の依頼を受けたことがあった。

2  被告佐藤は、原告が川上温泉の旅館を売却するときに立会いを依頼され、立ち会ったことがある。

3  原告は、被告佐藤に対し、旅館の売却益をなるべく高い金利で運用したいと語っており、被告佐藤からそれを聞いた渡辺は、一〇パーセントの利息でつつみ住建が資金を借りたい旨被告佐藤を通じて原告に告げてもらうよう被告佐藤に依頼した。

4  被告佐藤は美容学校の校長であり、つつみ住建の監査役ではあるが、経営はおろか監査業務にも一切関与しておらず、報酬も得ていない。

5  平成四年七月ころ、原告は、つつみ住建が二本松市の建売住宅の分譲を計画しており、そのために資金が必要であることをつつみ住建の事務所で渡辺及び被告佐藤から告げられ、妻と相談することにした。

6  その数日後、原告から妻にも説明してほしいとの要望を受け、渡辺と被告佐藤が原告方を訪問し、渡辺が利息を一〇パーセントとする旨及びつつみ住建の資産の話をし、二本松市の建売住宅の分譲を計画している物件を担保に入れる旨の説明をし、右物件の坪数、総分譲価格の見通しを説明し、さらに右物件の権利関係が複雑なため担保がきちんとしたものではないことから公正証書も作成する旨の説明をした。

7  右説明を受け、妻と相談したうえで、原告は本件消費貸借に応じることとした。

8  被告永山は、渡辺から依頼された形で原告から根抵当権の設定及び公正証書の作成嘱託手続の依頼を受け、これをおこなったが、原告は永山に対し自己紹介のうえ「何もわからないのですがよろしくお願い致します。」と述べただけであり、これらの手続きについての報酬を支払っていない。

9  根抵当権の設定が被告永山に依頼された際に作成された委任状には、設定者として有限会社日商ではなく、渡辺の名が記載されている。

10  本件消費貸借のなされた当日、原告は本件担保物件の登記簿謄本を見ていない。

11  公正証書は、本件消費貸借が締結され、五〇〇〇万円の授受がなされた後にである平成四年八月六日付でなされている。

12  原告は本件消費貸借の後、渡辺あるいはつつみ住建に対し、合計四〇〇〇万円を融資している。

13  原告は、会津工業高校を卒業後、東京の商事会社で輸入関係の仕事をした後、三代目として旅館の経営を約四〇年おこない、その間、徳陽相互銀行からの資金借入れに際し旅館の建物に根抵当権を設定したことがある。

二  以上の事実によれば、原告は旅館の売却益の運用の一環として渡辺に対し、融資を行なったものということができる。そして、当時の原告が旅館の売却益を唯一の収入源として生活していたこと、原告の経歴、原告において正常な判断力がなかったと認めるに足りる証拠が存在しないことを考慮すると、当然に事前に利息を付しての融資であることは確認済みであったというべきであり、また融資に際しても、実際に融資を受ける渡辺から分譲計画の説明を受けたうえで妻と相談のうえこれを決定したものというべきである。

三  そこで、まず被告佐藤の責任について検討するに、原告の主張は、被告佐藤が渡辺あるいはつつみ住建に十分な返済資力があり、かつ本件担保物件にあたかも十分な担保価値があるかのような言動を用いて原告をして渡辺に回収不可能な融資をさせた不法行為責任がある(被告永山が原告の主張する説明義務を尽くしていれば融資は実行されず、回収不能となることもなかったのであるから、被告佐藤の行為と損害との因果関係はないとの疑問はあるものの、その点は置く。)というものであり、不法行為が成立するには原告の判断を誤らしめる程度の違法と評価できる言動が認められねばならないところ、以上の認定によれば、原告は自ら融資についての意思を決定し、これをおこなったものというべきであるから、原告の主張は理由がなく、認めることはできない。

四  次に、被告永山の責任について検討するに、前記認定事実、殊に渡辺及び原告から被告永山に立会いまでも依頼されていない事実及び当初作成された委任状は渡辺が設定者(所有者)であるかような形で作成されている事実によれば、被告永山は本件消費貸借についての立会まで依頼されたものではなく(仮に立会まで依頼されていたのであれば、当然に所有者が異なることを発見していたはずである。)、単に根抵当権設定登記手続及び公正証書作成嘱託手続の依頼を受けたに過ぎないことが認められる。

してみると、取引の立会いを依頼された司法書士の説明助言義務、すなわち司法書士が社会的に信用の置ける人物であり、かつ一般の法的関係にも明るい準法律家として、取引自体を円滑、適正に資するべくその役割が期待されていることから生じる説明助言義務を前提とする原告の主張は認めることができない。

なお、仮に立会いまで依頼されていたとしても、本件のような融資の場合の説明助言義務は、融資が利息を徴収する消費貸借であり、殊に本件のように一〇パーセントという高率の利息を徴収するような場合においては、通常の売買等と異なり、双方に何らかの事情が存在(だからこそ高率の利息収入が得られるという自己責任の原則から当然の帰結である。)するのであり、このような場合においてまで一般の法的関係にも明るい準法律家として、取引自体の円滑、適正に資するべくその役割が期待されるということはできないというべきである。

五  以上によれば、被告らの責任はいずれも認められないから、両者の責任の関係について判断するまでもなく原告の請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例